ベトナム・ヴィンフィー湾|リゾート型
アマノイ
Amanoi

米国・ニューヨーク|都市型
バカラ・レジデンス
B a c c a r a t H o t e l s & Residences NYC

ディーキン エリザベス 百合香[アスタリスク]
グローバル不動産 ホスピタリティ・ラグジュアリーレジデンス担当

 

はじめに

連載第1回で「都市型」、第2回では「リゾート型」の超高級ホテルレジデンスを紹介してきた。双方の事例を通じて、この手の事業を成功させる上で欠かせない要素に「ブランド」があり、それこそがローカルの不動産相場とかけ離れたプレミアム価格を形成していることを示した。無論、ブランドがないと絶対に事業が成立しないというわけではない。言いたいのは、ブランドのある・なしで販売価格に天と地ほどの差が生じ、立てる事業計画は全くの別モノとなるということだ。不思議なことかもしれないが、建物の見た目やサービス品質が同じでも、世界で通用するブランドがなければ超ハイエンド市場で取り扱われることは、まずない。
ただし、ブランドさえあればよいということでは決してない。たとえば立地的条件について簡単に説明しておこう。都市型においては、都市中心部のプライム立地であることが極めて重要である。一方、リゾート型ではさほど関係はない。そもそもこのタイプでプライム立地という概念はほぼないと言ってもよいだろう。

「確保するべきブランド」とは何か。一言でいえば、「特別な最上級のライフスタイルを提供する、グローバルで高い地位を備えたブランド」である。富裕層が購入者の大きな割合を占めているため、彼らにとっての価値が反映されているブランドであることは重要だ。特にリゾート型のブランド価値は、立地や建物の機能・ 利便性を圧倒的に上回るものである。世界中で知られており、かつハイクラス層からの絶対的支持を得たブランドが施設名に冠され、そのブランド企業が威信をかけて運営していることが、オーナー・入居者の所有意欲をかき立て、ステイタス欲求を満たせるかがポイントだろう。

それでは、連載第3回、最終回となる本稿では、上記の点を踏まえ「バカラ」と「アマン」という世界的ラグジュアリーグッズ・ライフスタイルブランドによる、都市型とリゾート型両方の事例をご紹介していきたい。

両ブランドとも、彼らが持つ世界的な影響力を上手に活かすかたちで、ホテルレジデンスをグローバルで展開している。不動産投資ファンドやデベロッパーとプロジェクト単位で協調し、事業エリアや規模を大きく拡大している。事業パートナーである投資ファンドやデベロッパー側にとっても、彼らブランド事業者と組むことに極めて積極的である。それは通常の開発プロジェクトではあり得ない収益性を持った商品に大幅アップグレードできるメリットがあるためだ。

“アマン・ジャンキー”と呼ばれるファン富裕層を喜ばせる機能と要素を満たす「アマノイ」の環境、建築デザイン

 

施設1 Amanoi

アマノイ

 

アマンリゾーツは伝説的なホテリエのエイドリアン・ゼッカ氏が創業した世界的ホテル・ブランドだ。ホテルレジデンスを有効に活用しながら事業規模を拡大。近年、経営陣の入れ替わりがあってから、この傾向はさらに顕著となってきている。現在は米国、カリブ、東南アジア、ギリシャなどの6施設でホテルレジデンスを経営しており、今後開業する施設の多くはレジデンス併設型となる予定である。

施設

2013年にベトナム南部、ヴィンフィー湾沿いにオープンしたアマノイ(Amanoi)は31部屋のホテル客室と、5戸のレジデンス(ヴィラ)から構成され、うちレジデンスは約800㎡の4ベッドルーム(3戸)と、約1,000㎡の5ベッドルーム(2戸)の2タイプ用意されている。その他機能として、スパ(Aman Spa)、ジム、テニス・コート、スイミングプール、ビーチクラブ、ライブラリー、ブティック、複数のダイニング施設を備える。

周辺環境

ベトナム南部のビーチ・リゾートのニャチャンから約90分、カムラン国際空港から60分の距離にあるベトナム最古の国立公園内、高台からヴィン・ヒー湾を臨む立地となっている。周囲の大自然とビーチに同化したエクスクルッシブな立地と設計となっている。

 

ラグジュアリーレジデンス   事業化のポイント

 

ブランド力

アマン・レジデンス最大の競争力は「アマン・ジャンキー」といわれる熱い富裕層の支持者であり、彼らが主要なレジデンス購入者である。アマン・レジデンスは発展したリゾート地ではなく、概して周囲の開発が進んでいない僻地にあることが多い。不動産自体の資産価値より、アマンのブランドとアマン・レジデンスで暮らすというライフスタイルの価値が大きく占める。当然、レジデンスの価格基準はローカルな不動産売買相場とかけ離れている。グルーバルな主要都市にあるラグジュアリー物件が比較対象である。レジデンスをホテル客室として貸し出すホテルレンタル・プログラムが可能だが、レジデンス所有者はホテル客室としての収益配分を受け取れる。アマン・レジデンスの場合はその不動産価値や収益性より実需的な購入者が多い。収益性については「物件維持コストの足しになればよしと捉える感覚がある」というのが購入層との取引を通じた筆者の実感である。

価格帯

アマノイ・レジデンスの販売価格は非公表だが、他の東南アジアでのアマン・レジデンスの価格と同等の価格設定となっており、1戸あたり日本円で5億円前後〜と推定される。

上̶レジデンス専用のエントランスは、ホテルおよびレストランと区別され、プライバシーが守られる
下̶グランドサロンの大鏡の奥に、隠された様に存在するバカラバーは、マンハッタンの絶景が臨める
テラスへと繋がる。内装は木目の壁と3つのバカラシャンデリアが用いられ特別な空間を演出

 

施設2  Baccarat Hotels & Residences N Y C

バカラ・レジデンス(ニューヨーク)

 

 

ニューヨークの文化の中心であるブロードウェイやリンカーンセンターに囲まれたミッドタウン、中でも世界の高級ブランドの象徴でもあるNYマンハッタンの 5番 街 至 近 に、250年 の 歴 史 をもつ バ カラ(Baccarat)をその 名 に擁するホテル&ラグジュアリーレジデンス“Baccarat Hotel & Residences New York”。セントラル・パークに近く、MoMAに近接する好立地に2014年に竣工。Baccarat Hotel(客室114)とBaccarat Residence(60戸)を備える。建物内は1万2,000ピースに及ぶのバカラのクリスタル装飾に飾られ、特別なライフスタイルを演出している。

施設

Baccarat Hotelの施設には、世界的なスキンケアブランドであるLa Merの米国初のスパサロン“Spa La Mer”を含むウェルネス&アクアセンターや、スイミングプール、フィットネスセンター、レストラン(Chevalier Restaurant)、バー(Baccarat Signature Bar)、ラウンジ(Grand Salon)などが有り、 レジデンス所有者および居住者は施設とレジデンス専用のストレージの利用が可能。

 

1万2,000ピースのバカラグラスを使用したグランドサロンは、ニューヨークの新たなミーティングスポットとして人気を集めている

床から天井まで一面の窓と、特注オーク材を使用したフローリング。上層階の部屋はセントラルパークを見下ろす眺望を持つ

バスルームの窓からはミッドタウンの景色が臨める

 

ラグジュアリーレジデンス     事業化のポイント

 

ブランド力と収益力

プロジェクトの開発者は米国大手オポチュニスティック投資ファンド運用会社のスターウッド・キャピタルである。Baccaratというグローバルに確立されたブランドとホテルレジデンスというコンセプトを取り入れ、マンハッタンという世界のプレミア立地で、グローバルな富裕層を相手にすることで、ファンド背景のオポチュニスティック投資家の求める競争的リターンを達成できる、という事例である。当初プランでは、レジデンスの70%の購入者を海外からの購入者としており、海外富裕層からの不動産需要が多く集まるマンハッタンのラグジュアリー住宅市場に合ったコンセプトと言える。

サービス

コンシェルジュ、24時間セキュリティ、スパ&フィットネスセンター、ライフスタイルサービス、パーソナルショッピング、専用料理人サービス、運転手サービス、ハウスキーピング、ランドリーサービス、24時間ルームサービス、チャイルドケア、レストラン&バー、バレットサービス、ホテル優待

販売価格帯

販売価格:約3億5,000万円~約70億円
間取り:1ベッドルーム~5ベッドルーム
広さ:91㎡~686㎡

 

さいごに

ポイントは、いかにグローバル富裕層へ販売するかである。ブランドの協力を得られる場合もあれば、自身で行う場合、あるいはブランド自体が制限となるケースもある。しかしながら、ほと
んどのリスクを負うのは開発者だ。ブランドを獲得しても成功は必然ではない。当然、失敗事例もある。以上を含め、ビジネスプランの設計は極めて重要であり、ブランドへの理解が開発には不可欠と言える。高いポテンシャルを備えグローバルな需要を擁する日本において、ホテルレジデンス開発に取組む事業者の一助となれば幸いである。

 

※本掲載記事は2017年月間プロパティマネジメント掲載記事からの転用です。

本編はこちらからご覧いただけます
PM2017年2_4月号記事(世界の超高級ホテルレジデンス)第3回