HICAPで示された
ホテル事業3大トレンド
ディーキン エリザベス 百合香[アスタリスク]

 

ディーキン エリザベス 百合香氏はHICAPに本誌特派記者として参加した。グローバル市場に精通しラグジュアリー不動産に明るい “ミレニアル世代”の感性から、今後のホテル投資でカギとなるトレンドは何かを探ってもらった。今回HICAPではホスピタリティ市場にもたらされた「デジタル化による創造的破壊」と、いくつかの転換ポイントがメインテーマとなり、様々なセッションで議論がなされた。

 

What is Digital Disruption
創造的破壊を肯定

 

デジタル化の波によって、既存のビジネスのあり方や生活スタイルが変化することはある意味で脅威と言えるでしょう。それは、ホテル業界でも例外ではありません。しかし、HICAPで
は大きなトピックに「創造的破壊」が掲げられ、変化を恐れずにチャンスと捉えることをテーマとしていました。すなわち、デジタル化の波からホテルをどう守るかより、それを肯定し上手に使いこなすことが得策だとみているようです。

ネクスト・ストーリー・グループ(シンガポール)CMOモリス・スリム氏は、「ホスピタリティと空間の未来」というセッションで興味深い発言をしていました。同グループは香港のラグジュアリーホテル「ケリーホテル」の施設内に新設されたコワーキングスペース「Kafnu(カフヌ)」を運営。ホテル内で生産性や質の高い仕事はむずかしいとされてきた通念を塗り替えたことで話題を集めています。

モリス氏は、従来のホテルになかった機能を付加し “創造的破壊”をもたしたのは、「ソーシャルメディアの影響が大きい」と話していました。「ソーシャルメディアを支持する世代の
ニーズに寄り添い(ホテルも)変化し続ける必要がある」。またモリス氏はシェアリング・エコノミーのトレンドも影響しているといいます。Uber(680億ドル)、Ant Financial(600
億ドル)、Airbnb(310億ドル)、WeWork(210億ドル)などのように、ソーシャルメディアやウェブサイトを通じて得られる不特定多数の評価・ランキングを活用し導入したシェアリングビジネスがKafnuというわけです。

HICAP主催のネットワーキングパーティではケリーホテルがホストを務め、参加者をKafnuに招き内覧ツアーが行われました。Kafnu関係者は、「企業はホテル内のコワーキングスペースを活用することで、これまで出張先のサテライト拠点に支払ってきた賃料コストを削減できる。そして、科学的根拠のある調査では、労働生産性や従業員満足度の向上を図れることも証明された」としています。

ケリーホテル施設内に新設されたコワーキングスペース「Kafnu」

ケリーホテル

Experience
環境配慮と持続可能性は両立する

 

HICAPが掲げるもう一つのトピックは、「顧客需要の変化」でした。サンクチュアリー・リゾート(香港)の管理人アンドリュー・ジョーンズ氏は、ブレックファースト・セッション「Ownership Track- How to Best Manage My Hotel」で、「宿泊客が求めるものは、今までにない経験であり、よりニッチなものだ。ブティック型ホテルがそれに当てはまる。量販的なホテルブランド開発はもはや困難となり、大型ホテルブランドもそれを受け入れる必要がある」と述べました。

大型ホテルブランドが体験型の運営モデルへ移行する例として、IHG(インターコンチネンタル・ホテル・グループ)・ホスピタリティCEOのキース・バール氏は、ブティックホテルブランド「キンプトン・ホテルズ&レストラン」のアジア太平洋地区で、3つのマネジメント契約を締結したことを発表しました。バール氏は「まさに絶好の機会だ。今後はより多くの観光客が、洗練されたパーソナル・ライフスタイルが踏襲された旅行経験を求めるようになる。またIHGでは(ラグジュアリーというよりは)客室毎にヨガマットを装備したり夜に懇親会を開催したり、自転車の無料レンタルが受けられたり、現地ならではの体験を楽しめるといった、少々控えめなアプローチこそ旅行者の感動を引き寄せる」としています。

特筆すべき点として、ホスピタリティ業界の顧客は、より「環境に配 慮したもの」や、「持 続可能な(サステナブル)オプションサービス」を選ぶ傾向にあることを挙げています。ソネバ(モルディブ)CFO兼副CEOのブルース・ブロムレー氏は、「持続可能ホテルへの革新とその成功事例」と題したセッションで「私の役割は2つ。財務と持続可能性の統括だ。これらは車の両輪と同様、どちらに偏っても会社は立ち行かなくなる」、「持続可能性は、“コストのかかる拡張機能”ではない。コストの削減も、持続可能な環境も建設的な運用で実現可能」という発言は印象的で、参加者から多くの支持を集めていました。(*関連記事「COLUMN」参照)

 

COLUMN  環境配慮とホテル事業の持続可能性を考える

ジュラシックな体験に惹きつけられるミレニアル世代と新富裕層たち ―コモドドラゴンの町に5つ星リゾートが進出

「特別な体験」を求め世界からミレニアル世代が集まる

フローレス島最西端の街ラブアンバジョは、インドネシア・バリ島から飛行機で1時間の場所にある人口2,000人弱の小さな漁村だが、その規模に不釣り合いなほど多くの旅行者が世界中から訪れる。彼らの顔ぶれはバックパッカーから富裕層まで幅広い。それぞれ滞在の楽しみ方は異なるが目的はみな同じだろう。ラブアンバジョはコモド国立公園への玄関口であり、旅行者はここを基点に国立公園の島々を船で移動しながら手付かずの自然環境を楽しみにやってくるのだ。美しいサンゴ礁、ウミガメやマンタ、イルカをはじめ1,000種を超える海洋生物、3色(白・黒・ピンク)の砂浜が拡がる光景は圧巻。そして、何といってもコモド島内に生息しているコモドドラゴン(コモドオオトカゲ)とう特別な生物を間近にみるジェラシックな体験が一番の醍醐味だろう。

コモドドラゴンは体長3m、体重は70kgにも達する世界最大のトカゲである。コモド島の“主人”として、島に生息する野生の鹿やバッファローはほぼコモドドラゴンの獲物だ。特殊な風貌は筆者のような爬虫類フリークには憧れとともに愛らしさすら感じてしまうのだが、人間にとっては極めて危険な生き物であり、島を案内するガイドたちは観光客と接近し過ぎないように極めて厳格に管理している(もちろん、観光客はガイドの指示に従った行動をとっていれば危険はまずない)。訪れるのは、ヨーロッパや中国からやってきたミレニアル世代が中心。バックパッカーたちは唯一無二の自然や生き物との体験を求める仲間達と交流し、旅の喜びを共有しあう。その一方で、富裕層ツーリストたちはアマンリゾートが運営するクルーズ船などを利用し、体験と同時にラグジュアリーライフスタイルを謳歌している。そうしたラグジュアリーサービスを求める富裕層もまたミレニアル世代に多い。

初の5つ星ホテルが進出「持続可能性」が価値生む時代に

近年は、とりわけラグジュアリーな旅を楽しむ需要が高まってきている。バリ島でラグジュアリーホテルを展開するAYANA(インドネシア)はラブアンバジョ進出を決定、2018年夏に5つ星ラグジュアリーリゾートを開発する。大資本の参入でより多くの旅行者受け入れや地域経済の活性化が期待できる一方、これまでなかった課題にも直面している。ゴミの不法投棄や違法漁業、サンゴ礁への悪影響などで、観光客が期待している手付かずの自然環境を毀損してしまう恐れがある。AYANAではコモド国立公園の施設整備と自然環境の保全、レンジャーの育成などによる安全性向上を目的とした基金を通じコミュニティをサポートしていくとしている。サステイナビリティ(持続可能性)は、近年ラグジュアリーリゾート開発で極めて重要な要素である。観光環境を維持し富裕層の求める「体験」を守ることだけでなく、ラグジュアリーサービスを求めるゲスト達からの強い要望があることも大きい。なぜなら特に少ない客室数で特別な体験と高額なルームを提供するラグジュアリーホテルにとっては、ゲストである富裕層の理想とライフスタイルに寄り沿うことは最も重要であるからに他ならない。

コモド島のキラーコンテンツは「体験」

“インスタ映え”する手付かずの自然環境

ピンク色に染まる砂浜


コモドドラゴンは爬虫類フリークの憧れ

 

Boutique or Big Brand
問われるブランドの個性

 

3つ目のトピックは「顧客のホテル選定基準」です。「ブティック型か大型ブランド型か」“Rebels with a Cause”(理由ある反抗)というセッションでは、宿泊利用者は、そのホテルがブティック型か大手チェーン型かという二者択一ではなく、「個々のブランド」を重視して選ぶことが確認されました。

ホテルのブランドは、顧客にとっては信頼の象徴であり、それを維持するための協力を惜しみません。ブティック型ホテルを展開するヒップ&ハプニンググループCMO兼CFOのドリット・グルーバー氏はパネルディスカッションで、「消費者はいまだにロイヤルティ・プログラムを求めており、それを理解するブティックホテルは同じような方向感を持った同業他社へ常に目を光らせる必要がある。だが一方で、(事業の)相互紹介やパートナーシップ、シナジー効果が期待できる同じ方向感を持った異業種との協業に新しい活路を見出す必要がある」としています。エンブレムホテル代表取締役社長の入江洋介氏は有望なパートナーシップ先として、ファッションブランドといった異業種も検討の余地が大いにある」と話しました。

ベントレー・デザイン・スタジオのクリエイティブ・ディレクター、ビル・ベンズリー氏は、「デザインはラグジュアリーブランドだけのものではない。中間価格帯でもデザイン性は重要で、たとえ狭小空間でもデザイン創造性により魅力を大きく高めることができる」と話しました。

※本掲載記事は2017年月間プロパティマネジメント掲載記事からの転用です。

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HICAP 2017 Property Management Magazine