グローバル富裕層向け住宅日本が“超有望”な市場に

 

グローバル富裕層向け住宅     日本が“超有望”な市場に

 

ブランデッドレジデンスは、世界的なホテルやファッションブランドを冠に掲げた高級住宅である。ニューヨークの「The Residences at Mandarin Oriental,New York」や、ロンドンの「One Hyde Park」などがよく知られ、高い付加価値や希少性を求めるウルトラ富裕層が主な購入者となる。

その供給は欧米や東南アジアが中心だが、「近年の関心はもっぱら日本に向いている」と話すのは、アスタリスク 代表取締役社長の伊藤幸彦氏だ。アスタリスクは、グローバル富裕層向
けのラグジュアリーレジデンスの販売や企画・マーケティングを手がけ、一戸、約260億円のペントハウスとして知られるニューヨークのラグジュアリーレジデンス「220 Central Park South」*において数十億円規模の住戸販売実績を持つ。

*ニューヨークで最高のラグジュアリーレジデンスを標榜する開発プロジェクトで、徹底したブランディングのもと販売マーケティングは全く一般公開されず、購入希望者への面談審査をするなど、選び抜かれたウルトラ富裕層のみに販売している。

伊藤氏によると、資産1億ドル(100億円超)を超える中位~ウルトラ富裕層が、観光やビジネスだけでなく投資視察のために来日するケースが格段に増えたという。「日本の歴史や独自性のある文化、食など、多彩なコンテンツに触れるうち、彼らの目に投資先としても魅力的に映ってきたようだ」(伊藤氏)。

ブランデッドレジデンスの代表例

ワン・ハイドパーク

バカラ・レジデンス

立地条件は大都市とリゾート
開発利益の高さが魅力

 

日本国内でブランデッドレジデンスが成立する可能性のある都市は、東京や大阪、福岡などの「大都市」と、京都などの世界的な「観光都市」、ニセコ、白馬などの「スキーリゾート」である。

土地価格や建築コストの上昇で、既存の住宅開発に行き詰まり感が強まる日本のデベロッパーにとって、大都市でも、地方都市でもブランデッドレジデンスに取組むメリットは大きい。「欧米のような坪換算で3,000万円を超える超高級物件は稀だが、商品性・販売戦略をみれば1,000万円超/坪、ないしは同様のスペックの一般のコンドミニアムの30%以上の価格水準を実現することは、いま現在の日本において無理な話では全くない」と伊藤氏は打ち明ける。

 

高品質と高機能≠高価格
生活創造の発想が必要

 

ブランデッドレジデンスの建物仕様や構造など技術的スペックは、国内の中高級住宅と比べて大きな違いはない。異なる点を具体的にあげれば、専用エントランスやエレベーター、メイドルームやゲスト用バスルームの有無、あるいは寝室への独立アクセス確保といったプライバシー配慮に関する居室内のレイアウト配分である。

「日本のデベロッパーは良くも悪くも建物の品質や機能面を重視するあまり、物件価格を高く設定すると、それに見合った仕様や機能を盛り込もうとして、かえって狭苦しい空間・仕様に見え富裕層顧客にとっての価値を下げてしまう側面もある。つまり、ウルトラ富裕層が重視するのは建物そのものではない。海外の超高級レジデンスでは内装はスケルトン渡しというケースも多々ある。立地、ブランド、ステータス性の高さと、存在が唯一無二であることが大切」と伊藤氏は強調する。

そして最も重要なのは「ソフト面」という。言語対応の側面はもとより、入居者専用の送迎や買い物・食事サービスなどのコンシェルジュ機能が、「ウルトラ富裕層を満足させる水準に達していることが基本」(伊藤氏)となる。ウルトラ富裕層は国をまたぎ複数の家を所有していることが一般的。そうしたなかコンシェルジュサービスは、その国・地域ならではのコンテンツを確保しつつ、グローバル水準の使い勝手を備えている必要がある。

 

販売戦略は細心の注意が必要

 

販売戦略には独特のノウハウが必要となる。フォーシーズンズやアマン、ブルガリなど、各ブランドによってリーチする客層は大きく異なり、デベロッパーは事業初期の段階から、パートナー先のブランドの顧客・嗜好を研究し、彼らにとっての商品設計上の長所・短所を把握、当該事業にとって最適顧客をより明確に見定めておく必要がある。注意するべき点は、「売り残し」で、これが存在している間、物件のブランド価値は加速度的に失われ、先に購入した顧客の満足度と事業者への信頼感は格段に落ちていく。「カードゲームの “大富豪 ”と同じく、強い手札(部屋)を先に使ってしまった(売却した)プレーヤーはゲームに勝つことがむずかしくなる。その反対に最後まで温存していても同じ結果となる。それぞれ性質が異なるカード(部屋)をバランスよく手放し、最速で“全てをクローズ ”させていく戦略づくりが、ブランデッドレジデンスの事業設計において、もっとも重要なポイント」(伊藤氏)である。

 

地域相場でコストを割り出す
既成の事業計画は無意味?

 

ブランデッドレジデンスの価値は富裕層の嗜好、ブランド影響力に基づくという性格上、住宅としてのエリア相場感を壊す可能性を秘める。既存住宅の売買実績から事業コストを逆算するオーソドックスな事業性判断では成功につなげることがむずかしい。

「ウルトラ富裕層のニーズ把握が不可欠。乱暴な言い方にはなるが、エリアマーケティングをせず、必要な仕様・品質・サービスに合わせコストを積み上げた結果に基づいた価格設定でも、富裕層の心をくすぐるものであれば大いに評価され、事業が正当化される。そういった物件は時として当初想定を大幅に上回る価格で販売されている」と伊藤氏は話す。

アスタリスクでは目下、こうした実績をもつ海外投資家やホテルブランドと、日本のデベロッパーとのマッチングに力を入れているほか、日本がもっとも遅れているソフト面のサービスを充実させるため、高級レジデンスやヴィラに特化したITライフスタイル(コンシェルジュ)サービス「GOYOH」を開発、すでにニセコや東京などで展開をはじめている。

「日本には素晴らしい技術やコンテンツがあるにも関わらず、見せ方や売り方、ブランディングで欧米勢に大きく遅れをとっていることが歯がゆい。またサービスを提供する専門人材の不足も足かせとなりつつある。我々の持つノウハウとITといったテクノロジーが融合されることにより、これらの要素を補完し、日本市場の可能性をもっと世界の富裕層にアピールしていきたい。またその先には日本独自の粋をあつめ、世界水準を凌駕するジャパン・ラグジュアリーレジデンスの実現をすすめていきたい」と伊藤氏は結んでいる。

 

GOYOH

アスタリスクからスピンオフ・スタートアップし 2018 年 8 月に創業。世界の富裕層を対象に、ラグジュアリー、ホスピタリティなど次世代テクノロジーを活用したサービス提供を軸に、ラグジュアリーレジデンス開発コンサルティング・市場調査・投資機会アレンジ、ラグジュアリーサービス開発、スマートシティ・統合型リゾ-ト(IR)開発企画などをサポートしている。


GOYOH ウェブサイト :https://www.goyoh.jp/

 

※当コンテンツは、月間プロパティマネジメント誌2019年9月号に掲載された記事を編集して掲載したものです。オリジナル記事PDFは以下リンクよりご覧いただけます。

PM2019年9月号記事(ラグジュアリーレジデンス)